不動産屋を長年やっていると、賃借人が「生活保護を受けることになった」「生活保護を受けている」という案件を取り扱うことがあります。今回は不動産屋から見た「生活保護」という制度の説明と、一般に知られていない「生活保護と賃貸不動産との関係」について考えてみます。
皆さま、こんにちは。生活保護受給者の賃貸住宅は数回、仲介したことがある、不動産屋2代目社長のとっくんです。
【生活保護受給者】向け賃貸住宅に特化している不動産屋がある!!
これは主に、大都会での話です。『生活保護受給者を対象した賃貸住宅に特化している・・』会社の中には、扱う仲介案件の90%を超えるケースが「生活保護受給者がお客様」という会社もあります。
しかしながら、そもそも賃貸不動産の件数が少ない地方都市では「生活保護受給者に特化した」という会社はそう多くありません。
また、一般の不動産屋が「生活保護受給者を対象とした賃貸住宅の仲介をしたことがない」というのが実情の方です。
【生活保護受給】のための賃貸借契約締結の流れ!!
これは順を追って説明したいと思います。
「生活保護」の受給については、後に述べる一定要件を満たし、行政による状況確認などの作業があります。
生活保護を受ける方の賃貸借契約の手続き
以下の流れなのですが、基本的には不動産屋が関わるのは2.以降です。
1.役所に「住宅扶助」の許可をもらう
各自治体の福祉事務所の生活保護担当窓口でケースワーカー(相談員)に相談。
・生活状況等を把握するための実地調査(家庭訪問等) ・預貯金、保険、不動産等の資産調査 ・扶養義務者による扶養(仕送り等の援助)の可否の調査 ・年金等の社会保障給付、就労収入等の調査 ・就労の可能性の調査
上記の調査を受けて「家賃額等」の了承を受ける。
2.不動産会社で物件を探す
『生活保護を受給することを前提』とした賃貸物件を探す。不動産会社に「入居までの手続きと見積もり」を提出させる。
3.ケースワーカーに報告
物件情報と見積額を報告し、行政の「了承」を得る。
4.入居申し込み及び入居審査
「入居する賃貸物件」を決めたら、仲介会社、家賃保証会社、賃貸人などによる「入居審査」を受ける。
5.契約日程の決定
ケースワーカーと「初期費用」について打ち合わせをして、それに合わせて賃貸契約日を決める。賃貸借契約書の作成、重要事項説明書(不動産会社による)の作成など。
6.引越し会社を決める
転居日が決まったら、『転居費用の扶助』を受けるために、数社の「見積もり」を取る。引越し会社を決めたらケースワーカーに見積書を提出する。
7.賃貸借契約を結ぶ
『初期費用』を受領し、不動産会社を通して「賃貸借契約」を締結。契約書、各種領収書をケースワーカーに提出する。
8.転居費用を受け取り、転居
『転居費用』を受け取り、転居する。これらの領収書をケースワーカーに提出。
生活保護受給者は増えている!!
高齢者の単身世帯が増加する中、生活保護を受給している世帯は増えつつあります。
厚生労働省の発表によると、2019年7月時点においては、『1,637,264世帯』とされています。自治体の予算が限られている中、受給世帯が増える傾向が続くと『受給要件が厳しく』なっていきます。
生活保護を受けるための要件
ここで、「生活保護」に関しての理念と受給の要件について説明します。
生活保護とは、経済的な理由から生活が困窮している人に対し、「生活保護費」を支給し最低限の生活を保障する制度です。
生活保護制度とは
憲法第25条の理念に基づいて最低限度の生活を保障するために設けられている制度であり、何らかの原因で日々の暮らしに困っている人に対して、国の責任において生活するために必要な当面の生活を保障しながら、その人自分自身の力で生活できるように手助けしようとする制度です。
これらの理念を実現するため「生活保護の受給」には、経済的な困窮に陥る状況になっていることを客観的に示す必要があります。
生活保護の要件とは?!
生活保護の受給要件としては、世帯員全員が以下の4つを状況に置かれていて、さらに各種の手段を施しても『厚生労働大臣基準の生活費に満たないという状況』でなければなりません。
・資産を持っていない ・扶養義務者の扶養がない ・働ける能力など ・その他あらゆるもの
資産を持っていないこと
「預貯金」「生活に利用されていない土地・家屋等」があれば、売却等をしない限り生活保護が受けられません。(ただし、例外はあります)
扶養義務者の扶養がないこと
親族等が働ける状態で援助を受けることができる場合は、生活保護が受けられません。
かつてお笑い芸人の母親が「生活保護」を受けていることが明らかになった際、その芸人は年間数千万の収入があり、「生活保護が打ち切られた」ことがありました。
働ける能力がないこと
資産と援助もない上で、病気やけがなどにより働けない状態でない限り、生活保護は受けられません。
その他あらゆるものを活用しても基準に満たないこと
年金や高齢福祉手当、身体障碍者福祉手当など他の制度で給付を受けている場合は、その活用が前提であり、それでも世帯の収入が厚生労働大臣基準の最低生活費に満たない場合でないと、生活保護は受けられません。
生活保護の種類と内容
以下のように、生活を営む上で必要な各種費用に対応して扶助が支給されます 。
生活を営む上で生じる費用 | 扶助の種類 | 支給内容 |
日常生活に必要な費用 (食費・被服費・光熱費等) | 生活扶助 | 生活扶助 基準額は、 (1)食費等の個人的費用 (2)光熱水費等の世帯共通費用を合算して算出。 特定の世帯には加算があります。(母子加算等) |
アパート等の家賃 | 住宅扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
義務教育を受けるために必要な学用品費 | 教育扶助 | 定められた基準額を支給 |
医療サービスの費用 | 医療扶助 | 費用は直接医療機関へ支払 (本人負担なし) |
介護サービスの費用 | 介護扶助 | 費用は直接介護事業者へ支払 (本人負担なし) |
出産費用 | 出産扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
就労に必要な技能の修得等にかかる費用 | 生業扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
葬祭費用 | 葬祭扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
まとめ:【生活保護受給者】を対象とした賃貸借契約の利点?!
これは、一概には言えないので『一面だけの話』としてご理解ください。
賃貸住宅の経営の最大のリスクは①空室②賃料不払い――の2つです。
「生活保護受給者」を賃借人にしたら、「空室を埋めること」ができます。
さらに、賃料の不払いは『住宅扶助の代理納付制度』を使うと確実に賃料をもらうことができます。『住宅扶助の代理納付制度』は比較的簡単にこれを実施することができます。
住宅扶助の代理納付制度とは、『生活保護費の受給者が住 宅に関わる扶助費を、賃貸人である家主や管理受託会社に対して、生活保護法第 37 条の 2 に定められた給付費用を遅滞なく納付されるように促す制度』
結論から言えば、一定の要件さえ満たせば、賃貸物件の賃貸人及び管理会社からすれば『生活保護受給者は良いお客様になる?!』ということです。
本日も、最後まで記事を読んでいただき心より感謝しております。