新型コロナウイルスが拡大して以来、筆者の本業の不動産業では“相談事”が増えました。具体的には賃貸管理している入居者からの「賃料の減額のお願い」です。今回の記事では、この中で『住居確保給付金』という制度について説明をします。(トップ写真は福岡県サイトから転載)
とっくん社長。新型コロナウイルスの感染拡大で「賃料の減額の相談」が増えたと聞きますが…。
そうですね、ボクの会社は規模的に「賃貸管理は少ない」のですが、それでも1週間のうち数件は、「賃料の減額相談」の電話がかかってきます。
【住居確保給付金】受給要件が緩和~不動産投資のリスク軽減を!
本題を始める前に、今回の記事では「賃料」をめぐるいくつかの立場から説明を始めたいと思います。
不動産投資は多額の支出を必要とするために金融機関から融資(借入)を受けて、収益不動産を購入し、賃料(家賃)を収入にして必要経費や返済をしています。
不動産投資家にとっては、賃料の不払いや減額、支払猶予というのは、死活問題になります。
ところが、不動産業の所管である国土交通大臣が3月31日の記者会見で「テナントビル所有者に対し、入居する事業者からの賃料徴収猶予を検討するよう働き掛ける」考えを明らかにしました。
筆者は、政治家がこのような“人気取り”のような発言をするべきではない!と考えています。と言うのも、国土交通大臣のこの発言以来、不動産屋の身の回りで以下のようなことが増え始めました。
・入居者側が「新型コロナ禍」で賃料の猶予は当たり前だという風潮になった
・新型コロナ禍の現状とは別に、賃料減額の“駆け引き”をする入居者が現れた
筆者以外の不動産業者にも、是非、このようなことが身の回りで起こっているか?!を尋ねてほしいですね…。
【不動産管理会社の立場】~契約が継続し問題が生じないこと!!
筆者は、不動産屋なので「立場」的には『オーナー(大家)VS 入居者(テナント)』の一方を見方するのではなく、第一に考えるのは…
これに尽きます。管理業というのは「建物賃貸役契約」が継続する間、賃料の中からいくらかのパーセントを管理料としていただくビジネスモデルなので、『オーナー(大家)VS 入居者(テナント)』の利益が相反する場合には、上手な解決策を提示するのが腕の見せ所です。
賃料の減額・猶予の考え方?! ~金融機関融資の「リスケ」と同じ!!
建物賃貸借契約の中では、条文の中で「賃料の変更」について規定しているものがあります。「必ずあります」とは書けませんが、標準の契約書では書かれています。
新型コロナウイルス禍が、誰の責任でもない“不可抗力”であることは皆が共通認識があると思います。
では、コロナ禍による状況の変化のリスクを「誰が負担すべきか?」を考える時には、これは『オーナー(大家)VS 入居者(テナント)』の利益が相反します。こうした時には、皆が知恵を出し合うべきだと思います。
【事業者にとって金融機関へのリスケ要請は?!】~最終手段である!!
筆者の考え(不動産の管理業をする立場)では、賃料の「減額・猶予」などの措置は、『すべての措置を講じた上で、どうしようもない場合の最終手段である…』と思っています。例えるならば、金融機関からの融資返済の変更(リスケジュール、リスケという)と同じくらいの意味合いを持ちます。
皆さまは『リスケ』という言葉はあまりなじみがないかもしれません。ところが、不動産投資家や事業者にとっては「金融機関からの融資」は日常なので、これを返済計画を変えること(リスケ)は状況においては、ありえることです。
今回のコロナ禍によって、政府の方針としても「金融機関にリスケを受け入れるよう」に指導をしていくのでしょうが、もしも、事業者側が安易に「リスケ」を金融機関に依頼したらどのようなことが起きるか?
・金融機関側の評価が下がる
・次回の融資が難しくなる
金融機関の人間は「トラブルを避ける」という本能がありますので、政府の意向によって、事業者が『新型コロナ禍があるのでリスケをお願いしたい…』としたら、金融機関は渋々応じることでしょう。
ところが、実際には、次回以降の融資に“ブレーキ”がかかるのは間違いありません。筆者はそれを知っているだけに…、筆者が不動産投資家である以上は…
…筆者は、金融機関の融資を申し込む際に、このように肝に銘じています。
【テナントがオーナーへの賃料減額・猶予要請は?!】~最終手段である!!
上記の構図からすれば、賃料を元に事業を成立させているオーナーにとって、テナント側からの「賃料減額や猶予の要請」は、金融機関へのリスケと同じ程度の意味合いを持ちます。
もちろん、「金融機関の融資→金銭消費貸借契約、テナントの賃料→建物賃貸借契約」という違いはありますが、契約の履行ということでは同じことです。
【テナントからの賃料減額・猶予前に】緊急経済対策を活用を!!
実際に筆者が、テナント側からの「賃料減額依頼」が来たときに取った行動は以下のとおりです。
・賃料減額はオーナー側にとっては大きな負担になる→現状説明
・まずは政府の緊急経済対策などを活用してほしい→具体的な制度を説明
・万策尽きて、どうしても賃料減額・猶予が必要なときは相談をしてほしい
…このようにテナント側に申し入れました。
この記事を執筆時点で、政府の2020年度補正予算が可決されていないので、緊急経済対策も実行までは至っていません。恐らく、これらの対策を採り、給付や緊急融資を受けることができれば、「賃料減額・猶予」まで必要ないかもしれません。
同時に、オーナー側も賃料減額に応じて売上が減ったら、これも「緊急経済対策」の施策の対象者となることができます。つまり、テナント、オーナーの両者ともが、こうした制度を活用を視野に入れるべきだと思います。
まとめ:既存の制度の【住居確保給付金】の拡充で!! ~検討を?!
今回の記事の本題が最後に来ましたが…。既存の制度の中で『住居確保給付金』という制度があります。これは、テナント(事業者の賃貸借契約)ではなく、住居としての「家賃」の話なのですが、今回の新型コロナ禍で既存の制度の拡充が行われました。
以下、福岡県のサイトからの転載です!!
生活困窮者自立支援法の規定に基づき、県(町村を所管)及び市(各市を所管)では、離職や自営業の廃業により経済的に困窮し、住居を失う、または失うおそれがあり、今後の就職活動のために住居を確保する必要がある方に対して、家賃相当額を支給する「住居確保給付金事業」を実施しています。生活の土台となる住居を整えた上で、就職に向けた支援を行います。
令和2年4月20日から対象者が拡大します
新型コロナウイルス感染症の感染拡大等の状況を踏まえ、令和2年4月20日(月曜日)から改正厚生労働省令が施行され、支給対象が以下のとおり拡大されます。支給方法
県または市から、月ごとに家賃額を不動産媒介業者等の口座に振り込みます。(代理受領)支給期間
原則3か月(月々支給)。ただし、一定の要件を満たす場合は3か月単位で2回まで延長が可能です。(最長9か月)https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/jyukyokakuho.html から転載
筆者のお客様のうち「住居系」の賃貸不動産を所有している人は、入居者の状況によっては上記のような『住居確保給付金』を活用することにより、当事者の家賃負担を軽減することができます。
従来のこの制度は、申請においてはかなりのハードルの高さがありましたが、どうやらこれも簡素化される見込みのようです。
最後になりますが…
新型コロナ禍が国民に責任があるわけではありません。この国難を国民が一丸となって乗り切ることができれば…、と願っています。
最後まで記事を読んでいただき心より感謝しております。